小さく小さく生きる
読書感想文 月間致知6月号
102歳の巨匠 いま、この時を生きる
画家 野見山暁治さん
出征した満州で、一面寒々として凍りついた、灰色で全く色のない世界の中に、
地面に滲んでいる赤い色を見つけた。
この描写を読んだときに、なぜか読む眼が止まった。
読み進めることなく、何だろうって想像を巡らせた。
その先を読むと、赤色の上にかぶさった氷を靴の先で削り落としたら、
みかんの皮が出てきたのだという。そして野見山さんはそのみかんを手に取って、
「世の中には色というものがあったんだ」と震えたのだと。
そこから思いを巡らせた。なぜこのエピソードに惹かれたのかなあと思った時に、
ブラジルから帰国後の人生を迷った4年間を思い出した。
これからの生きかたが分からずに、いつまで経ってもトンネルの出口が見えずもがいて
いた。その時には黒々とした中にいる気がして、豊かな色を感じられていなかった。
野見山さんが見つけたミカンの皮の色、僕にとって色となったのは人の心の豊かさだった
のかもしれない。どんな人も力強い心を持っている、その美しさに気づいた頃から、
世の中に色を感じられる心を取り戻せた。
野見山さんの言葉にぎゅっと胸を締め付けられた「小さく小さく生きていくものだ」。
人間が死に直面したときに思うのは、有名になろうとか大きなことをしようという思い
ではなく、目の前の何気ない出来事や人とのつながりを慈しみながら、小さく小さく
生きるものだと。
目の前を懸命に生きる、小さく生きてることで素晴らしいんだよと、
大きく背中を押された気がする。ありがたい。